日本でレイターステージの採用が難しい理由


スタートアップがレイターステージに差し掛かると、資金に余裕が生まれ、プロダクトも安定し、採用を一気に加速したくなるフェーズに入ります。今までの苦労が報われ、知名度も上がり、ポジションも十分に準備できています。

が、採れない。

こんなに頑張ってるのに…やることたくさんあるのに…人がたくさん必要なのに… なぜでしょうか。

想起はされても応募しない

まずは、自社目線ではなく「求職者の目線」で考えましょう。

「リスクを取って挑戦したい」「裁量のある環境で働きたい」「カオスを楽しみたい」といったタイプの人は、レイターでは物足りなく、アーリーステージのスタートアップに向かうでしょう。

一方で、「安定した企業で働きたい」「ブランドのある会社に行きたい」「技術だけに集中したい」そんな人はメガベンチャーに向かいます。

レイターステージは、このどちらでもない「中途半端な位置」に見られがちです。

求める人物像とのミスマッチ

レイターになると、いわゆる「スタートアップっぽい人材」ではなく、やや保守的な人の応募が増えてきます。

これは、これまでのブランディングや露出の成果でもあります。論理的に言えば、広く認知されればされるほど、そういう層にも届くのは自然な流れであり、むしろそのような層に届いていることが成果の証拠です。

「スタートアップらしさ」に惹かれる人材のパイが限られていることもあり、あえてその外側にいる人を採用し、組織として適応する準備が必要になります。

もっとも危険なのは、表面上の経歴(lineage)、肩書きや知名度がAクラスでも、実力としてはB〜Cクラスの人材がタイミング的に集まりがちなことで、彼らが中核ポジションに入ると、会社の成長そのものに大きなダメージを与えます。

レイターのSaaS全部同じように見える問題

アーリーステージでは、創業メンバーの個性や言葉によって差別化が可能です。 面談でも直接その熱量に触れられるため、候補者にとっても「この人と働きたい」「この船に乗りたい」という意思決定がしやすいフェーズです。

一方、レイターステージになると、会社の見た目は判で押したように同じになります。

  • 「SaaS ARR〇〇億」
  • 「プロダクトに手応えが出てきたフェーズ」
  • 「事業成長に伴い人材強化中」
  • 「スケール期のSaaSで社会にインパクトを」

もはや別のレイターステージの会社名と交換しても、おそらく誰も違和感を持たないでしょう。

洗練されることは悪いことではありません。むしろ組織として成熟してきた証です。しかし同時に、それは「語れる独自性が失われる」リスクでもあります。

特に採用市場では、候補者は当然のように複数社を比較検討します。

エージェント・求人票・SNS・口コミ・知人経由など、インプットの経路は限られており、各社が似たタイミングで、似た言葉で、似たメッセージを発信している状態になります。

こうなると、候補者の目には「カタログスペックで比較するしかない」ように見えてしまいます。

加えて、この情報の均質化は、候補者側だけに限りません。 実は、採用に関わる側、つまり人事、現場マネージャー、エージェント、面接官も、似たようなインプットに晒されています。

  • 採用のテンプレート的ノウハウ
  • 採用系note・HRメディアで繰り返される「勝ちパターン」
  • 候補者でもありうる採用に携わるメンバーの転職体験・他社比較
  • 競合他社の採用プロセス

など、皆が似たような情報ソースを参照し、似たような“正解”を学んでいるのです。

その結果、「今風の採用をしているつもり」が、気づかぬうちに“他社と同じことを同じように言っている”状態を生み出しています。

つまり差別化できないのは、候補者の比較眼が厳しいからではなく、採用側の発信自体が“テンプレート化”してしまっていることが原因でもあります。

発するメッセージがどこかで聞いたような言葉になるのは、むしろ必然です。差別化ができないのではなく、差別化が崩れていく構造そのものが、レイターステージにはあるのです。

本当に会社が伸びるのか

「IPOで終わり」がまだスタンダードな日本において、レイターステージに入社する意味は、「入ってからさらに伸びていく期待」がなければ薄れてしまいます。

ワクワクしたくてスタートアップに来たのに、成長の手応えがなく、「もう国内の刈り取りしか残っていない」と感じたら、優秀な人ほど他へ流れてしまうでしょう。

特に、国内市場に閉じたビジネスモデルの場合、「天井感」が早く訪れるため、海外展開など、もう一段上のスケール戦略が求められます。一方で海外で勝負となるとさらに一段階経営レベルを引き上げる必要があります。

内情が想像以上に伝わっている

このフェーズでは、退職者も増え、社員数も増え、「社員の知人経由」で社内の雰囲気や実態がかなりの精度で知られるようになります。

つまり、候補者は応募前に「どんな会社か」だいたい把握していると考えるべきです。

逆に言えば、内情を知ろうともしない候補者は、ミスマッチの可能性が高いかもしれません。

自社を、知人に心から推薦できるでしょうか? 競合と比べて魅力があると言えるでしょうか?

採用をブーストする前に、まずは魅力の根本を見直す必要があるかもしれません。(プロダクト開発と同じ話ですね)

魅力ある組織にするために採用したいというのは一理ありますが、鶏が先か卵が先か状態です。

レイター特有の問題に対処できる人材がまだ少ない

特に日本では、SaaSやスタートアップのスケール経験が浅く、「組織フェーズの壁」に直面したときにナレッジも人材も足りない状況です。

このフェーズを乗り越えるには、スケール経験者が必要ですが、そもそも数がいません。

これは構造的な問題であり、10〜20年かけて徐々に解消されていくものでしょう。

応募してくれたのにアトラクトできない

ここまでの壁を突破し、カジュアル面談まで進んだのに断られるのは悲しいことです。全員承諾はもともと無理とはいえ、承諾率が低すぎることはレイターステージ特有のなにかがあるかもしれません。

思えばアーリーステージでは創業メンバーが熱を持って直接語りかけていました。今は、最近入社したマネージャーが業務に忙殺される中、気もそぞろに話すだけです。ビジョンはもとより、現場で行われている業務の解像度も追いついていないかもしれません。

「語る人が減っていく」なか、創業の熱と成長の実績を候補者に言葉で伝えられる人を、どう育て、どう配置するかが鍵になります。

月並みですが、カルチャーデックの活用、面接の設計、トレーニングが必要になります。

これらをどうするか

もちろん、上記のような構造的問題をすぐに解決するのは難しいですが、「待遇を上げる」ことは最もシンプルで即効性のある手段です。

「お金ではなく志が大事」という気持ちは大切ですが、それだけで人が集まる時期は、もう過ぎ去っています。

(2010年代ごろの米国ではIPO後の成長なり買収による早期exitが狙えながら、アーリーより確実性のあるレイターステージはある意味狙い目だったという話もありますね)

さいごに

ここで述べたことは、採用だけでなく離職予防の観点でも重要です。

今の採用計画は、現実に即しているでしょうか?

理想論ではなく、「今の会社がどこに立っているか」を冷静に見極める必要があります。

※本記事で言う「レイターステージ」は、主に日本市場における文脈を想定しており、おおむねシリーズC後半〜上場直前(Pre-IPO)のフェーズを指します。 アメリカのスタートアップではレイターがもっと長期にわたることもありますが、日本ではこのあたりが「レイター」の実質的な意味合いになります。